交渉と下請法への意識

1. 購買部門にとっての取引先の存在

誰でも購入できる汎用品であれば、当然ながら価格優先で選定し、最も安価な供給業者を見つけ、納期に間に合うよう必要量を契約するのが基本です。しかし、特殊な仕様や製造品となると話は別です。求める仕様を満たし、かつ納期を守って安定供給できる取引先と出会い、信頼関係を築いたうえで契約を結ぶ必要があります。

特殊仕様品の購買における基本認識

  • ・「品質・納期・価格」の三要素に対する合意が必要
  • ・信頼関係の構築が取引の前提
  • ・契約履行(支払完了まで)が購買部門の重要な役割

2. 相談、そして必然的にある交渉

発注に至るまでの検討プロセスにおいて、まず重視すべきは品質です。次に、必要なタイミングで提供できるかどうか。そして最後に確認されるのが価格です。購買側にとってはコストであり、供給側にとっては売上となるため、どうしてもこの部分は交渉の余地が生まれやすくなります。

購買交渉で考慮すべき順序

  • ・第一に「品質」
  • ・第二に「納期(必要なタイミングでの提供)」
  • ・第三に「価格(比較・交渉の対象)」

たとえば、「早期納入だから価格は高く」「まとめ買いで単価を下げてほしい」といったやりとりが発生します。また、過去の見積書や他社との比較、長期継続の前提、安定品質の維持など、さまざまな条件によって品質・納期・価格のバランスは動くものです。

3. 購買取引における供給側の立場と保全

供給事業者側も、製造・提供にあたっては自社のコストや経費に加え、さらに上流の取引先との関係を踏まえて供給計画を立てています。

サプライチェーン安定化の重要性

  • ・供給側も上流の取引を含めた調整が必要
  • ・構造が複雑になると供給リスクが増大
  • ・海外調達や小規模業者の場合は特にリスクへの配慮が必要

こうしたなかで供給業者もリスクを抱えつつ契約を履行しており、企業規模によっては経営上のリスクにもなり得ます。特に、下請法の適用対象となる取引先については、購買部門としてより一層の配慮が必要です。

4. 購買部門として知っておくべき「下請法」

以前にも触れたように、「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」は、契約事項の明文化と適切な取り交わし、納入後の検収や支払に関するルールを定めています。対象となるのは、単に余裕のある中堅企業ではなく、資金体力に乏しい中小企業も含まれています。

下請法違反となる具体例

  • ・見積を無視した一方的な価格交渉
  • ・注文後の価格変更
  • ・納期遅れの責任を一方的に負わせる(保管等)

近年、公正取引委員会はこうした違反への対応をより厳格化しており、違反企業名の公表も行われるなど、企業としての姿勢が問われています。

5. 正当な交渉を成立させるために必要な情報管理

では、何が「過度な交渉」とされるのか。何が問題となり得るのか。ポイントは、交渉の過程や合意内容を明確に記録・管理しているかにあります。

信頼ある交渉のための情報管理体制

  • ・合意の内容と経緯を記録に残す(注文書・契約書など)
  • ・電話だけでなく、最低限メールなどの文面を残す
  • ・見積・交渉・合意履歴をデジタルで管理する仕組みの整備

これは供給側にとっても同様で、交渉後に内容が変更される場合も、互いの合意がなければ無効です。
交渉は「技術」でもありますが、それ以上に「記録と運用」が信頼と適正な取引の土台になるのです。
※過去のコラム「下請法対策のポイント」も、併せてご参照ください。